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静岡地方裁判所 平成8年(わ)312号 判決

裁判所書記官

水崎幹也

本店の所在地

静岡県浜松市鴨江三丁目六一番二八号

株式会社林本建設

(右代表社代表取締役 林本辰明)

本籍

静岡県浜松市鴨江三丁目四一一番地の三四

住居

同市西浅田一丁目五番一七号

アルコマンション一〇〇一

会社役員

林本辰明

昭和一八年一月二日生

右両名に対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官落合俊和及び横田希代子並びに弁護人(私選)鈴木俊二(被告人両名について)各出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人株式会社林本建設を罰金二五〇〇万円に、被告人林本辰明を懲役一年に処する。

被告人林本辰明に対し、この裁判確定の日から三年間その刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人株式会社林本建設(以下「被告人会社」という。)は、静岡県浜松市鴨江三丁目六一番二八号に本店を置き、土木建築設計施行業を主たる目的とするもの、被告人林本辰明は、被告人会社の代表取締役として、同会社の業務全般を統括しているものであるが、被告人林本は、被告人会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、架空及び水増し外注工事費の計上、雑収入の除外等の不正の方法により、所得の一部を秘匿した上、

第一  平成三年八月一日から平成四年七月三一日までの事業年度における被告人会社の実際の所得金額が一億五四八五万八一三九円あり、これに対する法人税額が五六六九万一一〇〇円であったにもかかわらず、平成四年九月三〇日、同市元目町一二〇番地の一所在の所轄浜松西税務署において、同税務署長に対し、右事業年度における所得金額が三一三五万七三八五円であり、これに対する法人税額が一〇三七万八三〇〇円である旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額との差額四六三一万二八〇〇円円を免れ

第二  平成四年八月一日から平成五年七月三一日までの事業年度における被告人会社の実際の所得金額が四六九〇万五三八一円であり、これに対する法人税額が一六三四万五五〇〇円であったにもかかわらず、平成五年九月三〇日、前記浜松西税務署において、同税務署長に対し、右事業年度における所得金額が二七八〇万七九七八円であり、これに対する法人税額が九一八万三七〇〇円である旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額との差額七一六万一八〇〇円を免れ

第三  平成五年八月一日から平成六年七月三一日までの事業年度における被告人会社の実際の所得金額が一億三一八五万六一一七円あり、これに対する法人税額が四八三〇万二〇〇〇円であったにもかかわらず、平成六年九月三〇日、前記浜松西税務署において、同税務署長に対し、右事業年度における所得金額が三〇六八万九二七一円であり、これに対する法人税額が一〇三六万四四〇〇円である旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額との差額三七九三万七六〇〇円を免れ

たものである。

(証拠の標目)(必要に応じて証拠の末尾に証拠等関係カード記載の番号を付記する。)

判示事実全部について

一  被告人林本辰明の当公判廷における供述

一  被告人林本辰明の検察官に対する供述調書

一  被告人林本辰明の大蔵事務官に対する質問てん末書(乙1)

一  八木のり子の検察官に対する供述調書

一  八木のり子(四通)(甲30、31、33、34)、原口和江、池端忠男(二通)、山口雄司(二通)及び森下義朗(二通)の大蔵事務官に対する各質問てん末書

一  池端忠男作成の上申書

一  大蔵事務官作成の査察官調査書八通(甲8、9、11ないし16)

判示第一の事実について

一  八木のり子(二通)(甲32、35)、曽我康治及び天野善正の大蔵事務官に対する各質問てん末書

一  大蔵事務官作成の証明書二通(甲2、5)

判示第二の事実について

一  大蔵事務官作成の証明書二通(甲3、6)

判示第三の事実について

一  田中俊夫、休幾次及び五十里幸雄の大蔵事務官に対する各質問てん末書

一  大蔵事務官作成の証明書(二通)(甲4、7)及び査察官調査書(甲10)

(法令の適用)

被告人会社につき

一  罰条(判示各所為) いずれも法人税法一六四条一項、一五九条一項、二項

一  併合罪の処理 平成七年法律第九一号による改正前の刑法(以下「改正前の刑法」という。)四五条前段、四八条二項

一  罰条(判示各所為) いずれも法人税法一五九条一項

一  刑種の選択 いずれも懲役刑選択

一  併合罪の処理 改正前の刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(犯情の最も重い判示第三の罪の刑に法定加重)

一  刑の執行猶予 改正前の刑法二五条一項

(量刑の理由)

本件脱税は、被告人林本辰明が将来の不況に備えて敢行したものであるが、三年間で合計九一〇〇万円余りという高額の税を免れていること、本件のほ脱率も約七五・三パーセントという高率であること、本件は、主として被告人会社の事務員に指示し、架空会社の請求書等を作成させるなどして、架空・水増外注工事の計上、雑収入の除外等を行って所得を秘匿したという事案であって、態様が計画的かつ巧妙であることなどに照らすと、犯情は悪質である。たしかに不況に備えるという心情自体は理解できなくもないが、この種の脱税犯罪は、源泉徴収等でほぼ一〇〇パーセントの納税義務を果たしている給与所得者や、正直に納税申告を行っている誠実な納税者をして、税負担に対する不公平感を醸成させ、ひいては、納税申告制度の根幹をも危うくするものであることなどに鑑みると、本件犯行の動機に酌むべき点はなく、本件を安易に計画し、実行した態度は厳しい非難に値し、被告人らの刑事責任は重いといえる。

他方、被告人会社は、既に本件にかかる修正申告を済ませた上、重加算税等を支払っていること、被告人林本辰明は、当公判廷において、本件を反省し、二度と本件のようなことを行わない旨明言していること、同被告人には懲役刑の前科がないことなどの事情もある。

そこで、右各事情を総合考慮して、被告人両名について主文の刑が相当であると認め、被告人林本については、今回に限って、その刑の執行を猶予することとした。

よって、主文のとおり判決する。

(求刑 被告人会社につき罰金二五〇〇万円、被告人林本につき懲役一年)

(裁判官 任介辰哉)

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